「へえー、掃除機ねえ」とつぶやきつつ、事務所に戻った。弊社事務所の一階は書店のようになっていて、弊社の刊行物を販売している。何とはなしに、そこをながめると、さっき話をしたばかりの、イギリス製掃除機に関する単行本が置かれていた。ダイソン氏の自伝『逆風野郎!』(原題は『against the odds』)を弊社が出版したところだったのである。これもなにかの縁と考え、社員割引を利用し、この本を買った。
席に戻り序章を読んだだけで、間違いなく面白い本であると確信した。なにしろ序章の題名が「金儲けのノウハウを教えるつもりはない」なのである。そしてダイソン氏は次のように宣言する。以前、別のWebサイトで紹介した箇所だが、再度引用する。
この本は、米国のシリコンバレー企業よろしく、急成長して巨万の富をつかむためのお手軽なノウハウ本じゃない。ビジネス書でもない。むしろ、いまあるビジネスに背を向ける本で、世界を役立たずの醜悪な代物や不幸せな人々であふれさせ、国を経済至上主義にしたクズ思想に反旗を掲げる本なんだ。
彼が言うクズ思想とは、「ただちに収益や売上高、あぶく銭を要求する短期収益指向」を指す。「旧製品の売り上げ拡大に走り、結局は世界に冠たる広告産業と手を結び、あとはすべてをダメにしてしまう」考え方のことである。こうしたクズ思想は、発明家、クリエーター、エンジニア、デザイナーを軽く見る、とダイソン氏は怒る。「本当に強い産業国家は発明をしてきた国だ」「デザインや研究開発、エンジニアリングはそんなもの(本誌注・短期収益指向のこと)じゃない。それらは企業を長期的に刷新する、あるいは築き上げる方法を提供するんだ」。